解脱道論 分別戒品第二 ── シンプル版 Batch 12
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MODULE 1:四種の戒(第五軸)──四種戒の最終分類
核心:波羅提木叉威儀戒・命清浄戒・根威儀戒・縁修戒。この四種はBatch 12〜17の全体構造を規定する。
| # | 種類 | 対応Batch | 概要 |
|---|---|---|---|
| 1 | 波羅提木叉威儀戒 | 12〜13 | 律の威儀。行と非行、行処と非行処 |
| 2 | 命清浄戒 | 14 | 邪命を犯さない |
| 3 | 根威儀戒 | 15 | 六根を守護する |
| 4 | 縁修戒 | 16〜17 | 四事(衣食住薬)の修行 |
「復た次に、戒に四種有り。波羅提木叉威儀戒・命清淨戒・根威儀戒・縁修戒なり」
この四種は、Batch 11までの分類軸とは性質が異なる。Batch 10〜11は戒を分析する軸(二種・三種・四種の分類格子)であった。本バッチからの四種は戒を実行する領域──波羅提木叉(律儀)・命(生計)・根(感覚器官)・縁(生活必需品)──の規定である。分析から実装へ移行する。
MODULE 2:波羅提木叉威儀戒の定義
核心:波羅提木叉は「戒であり、起であり、初であり、行であり、護であり、威儀であり、脱であり、無縛であり、諸法の面であり、善法を正受するため」──9つの属性。
| # | 属性 | 意味 |
|---|---|---|
| 1 | 戒 | 律そのもの |
| 2 | 起 | 出発点 |
| 3 | 初 | 最初にくるもの |
| 4 | 行 | 実践 |
| 5 | 護 | 守り |
| 6 | 威儀 | 整った振る舞い |
| 7 | 脱 | 解放 |
| 8 | 無縛 | 縛りのないこと |
| 9 | 諸法の面 | すべての法の表面(入口) |
「善法を正受せんが爲なり。波羅提木叉の義と名づく。身口業を越えず。是れ威儀なり」
波羅提木叉の義とは、善法を正受するためのもの。身口の業を越えないことが威儀。
「覆う所に住す」とは、波羅提木叉の威儀をもって成就し四威儀(行住坐臥)を護ること。
MODULE 3:非行の定義──邪命自活
核心:非行とは仏の制する邪命自活。七つの具体例が列挙される。
| # | 非行の具体例 | 原文 |
|---|---|---|
| 1 | 杖竹を施す | 「或いは杖竹を施し」 |
| 2 | 花葉果実を施す | 「或いは花葉果實を施し」 |
| 3 | 楊枝澡浴を施す | 「或いは楊枝澡浴を施し」 |
| 4 | 美悪を販弄する | 「或いは美惡を販弄し」 |
| 5 | 調戯をする | 「或いは調戲を爲し」 |
| 6 | 諂諛して自ら進む | 「或いは諂諛して自ら進み」 |
| 7 | 恣に駆馳して遠く賓を招会す | 「或いは恣に驅馳して遠く賓を招會す」 |
「此の如き諸行、佛の制する所なり。邪命自活と謂う。此れを非行と爲す」
これらはすべて、利を得るために他者との関係を操作する行為。物を贈り、媚びへつらい、遠方の有力者を招く。Batch 14の邪命(命清浄戒)の前身がここにある。
MODULE 4:二種の非行──身の非行と口の非行
核心:非行は身と口に分かれる。身の非行は身体を使った社会的不適切行為。
「復た次に、二種の非行有り。身の非行・口の非行なり」
MODULE 5:身の非行──全列挙
核心:身の非行は僧団の中での具体的な振る舞いとして列挙される。上座への不敬、自己顕示、女性への不適切な接触に至るまで。
| # | 身の非行 | 原文 | カテゴリ |
|---|---|---|---|
| 1 | 陵慢の心をもって僧中に往至す | 「陵慢の心を以て僧中に往至し」 | 傲慢 |
| 2 | 大徳を排触す | 「大徳を排觸し」 | 上座への不敬 |
| 3 | 叨佷として自ら前す | 「叨佷として自ら前す」 | 自己顕示 |
| 4 | 猗り行きて先に上位に坐す | 「或いは猗り或いは行きて先に上位に坐し」 | 序列の破壊 |
| 5 | 大を下に推す | 「大を下に推す」 | 序列の破壊 |
| 6 | 坐し猗りて排調す | 「或いは坐し猗りて排調す」 | 横柄な態度 |
| 7 | 肩を拍ち笑語す | 「或いは肩を拍ち笑語す」 | 馴れ馴れしさ |
| 8 | 上座は徒跣なるに自ら革屣を著く | 「上座は徒跣なるに、自ら革屣を著く」 | 上座への不敬 |
| 9 | 耆徳は下路なるに己は高陌を行く | 「耆徳は下路なるに、己は高陌を行く」 | 上座への不敬 |
| 10 | 衆の異縁をもって相い軽悩す | 「衆の異縁を以ての故に相い輕惱す」 | 軽蔑 |
| 11 | 勝を少に待し、劣を長に与う | 「或いは勝を以て少に待し、劣を推して長に與う」 | 不公正な分配 |
| 12 | 浴室にて薪木を焼き門戸を関閉するに諮問なし | 「或いは浴室に於いて諸の薪木を燒き、門戸を關閉するに皆諮問すること無し」 | 共有資源の私物化 |
| 13 | 水辺に詣りて自ら先に入る | 「或いは水邊に詣りて輒ち自ら先に入り」 | 序列の無視 |
| 14 | 身を嬌にし搏を撃ち鄙相を現ず | 「身を嬌にし搏を撃ち諸の鄙相を現ず」 | 不適切な身体表現 |
| 15 | 他の舎に入りて前後を超越す | 「若し他の舍に入りて前後を超越し」 | 礼節の欠如 |
| 16 | 行坐次なし | 「行坐次無し」 | 秩序の無視 |
| 17 | 屏処にて女人・僮女と戯弄す | 「或いは屏處に在りて女人及び諸の僮女と戲弄し」 | 不適切な異性関係 |
| 18 | 其の首を摩触す | 「其の首を摩觸す」 | 不適切な身体接触 |
「是の如き等の過、身の非行と謂う」
身の非行のカテゴリ分布
| カテゴリ | 該当番号 | 数 |
|---|---|---|
| 傲慢・自己顕示 | 1, 3 | 2 |
| 上座への不敬 | 2, 8, 9 | 3 |
| 序列の破壊・無視 | 4, 5, 13, 16 | 4 |
| 横柄・馴れ馴れしさ | 6, 7 | 2 |
| 軽蔑・不公正 | 10, 11 | 2 |
| 共有資源の私物化 | 12 | 1 |
| 不適切な身体表現 | 14 | 1 |
| 礼節の欠如 | 15 | 1 |
| 不適切な異性関係 | 17, 18 | 2 |
MODULE 6:波羅提木叉威儀戒の構造──行と非行、行処と非行処
核心:「衆行具足」は行と非行の区別、行処と非行処の区別を含む。本バッチは非行と身の非行を扱い、Batch 13で口の非行・行・行処を扱う。
| 要素 | 内容 | 対応Batch |
|---|---|---|
| 非行(邪命自活) | 利を得るための七つの操作 | 12 |
| 身の非行 | 僧団内の18の不適切行為 | 12 |
| 口の非行 | 次バッチ | 13 |
| 行 | 非行の反転+具体的な正行 | 13 |
| 非行処 | 行くべきでない場所 | 13 |
| 行処(依・守護・繋縛) | 行くべき場所 | 13 |
三層クロスリファレンス
| 解脱道論(本バッチ) | 大安般守意経 | Kernel 4.x |
|---|---|---|
| MODULE 1:四種戒(波羅提木叉・命・根・縁修) | MODULE 1:安般守意の四義(安・般・守・意) | Vol.0:シリーズ全体の四層構成 |
| MODULE 2:波羅提木叉の9属性 | MODULE 2:六事の定義(各段階の属性列挙) | Vol.1:出離プロトコルの属性定義 |
| MODULE 3:七つの非行=邪命自活 | MODULE 11:止悪一法プロセス(悪の具体的列挙) | Vol.2:18のノイズ除去(ノイズの具体的列挙) |
| MODULE 5:身の非行18項 | MODULE 4:数息のエラー定義(具体的エラーパターン) | Vol.2:ノイズ源のカタログ |
| MODULE 6:行と非行の構造 | MODULE 10:止観デュアルプロトコル(正と非の二重構造) | Vol.1:障害と出離の対構造 |
STATUS / NOTE
- 本バッチから分別戒品は「分析」から「実装」に移行する。Batch 10〜11の分類格子は戒を22軸で分析した。本バッチからは戒を四つの領域(波羅提木叉・命・根・縁修)で実装する。
- 四種戒の第五軸(波羅提木叉・命・根・縁修)は、Batch 12〜17の全体構造を規定する。この四つが以後6バッチの骨格。
- 身の非行18項は、僧団の社会的秩序の記述である。序列の破壊(4項)が最多。仏教の僧団は序列が厳密であり、序列の無視はすなわち僧団の破壊。
- Batch 08で述べた戒の相の三破法(波羅提木叉法の破壊・縁法の破壊・根法の破壊)と、本バッチの四種戒(波羅提木叉・命・根・縁修)は対応する。破法の三種が、戒の四種として実装仕様に展開されている。
- 身の非行の最後の二項(女人との戯弄・首の摩触)は、Batch 09の34障害の「親近女人」(#31)の具体化。
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