受持の自在に至る
「彼の坐禅人、是の如く次第に観を作す。受持の自在を作すに至る。一種ならざる変を作す。」
次第に観を作す。段階的に距離を広げ、各段階で観察を保ちながら。その果てに「受持の自在」に至る。
一種ならざる変。一つだけではない。
「一を以て多と成し、多を以て一と成す。或いは現に壁を徹し、牆を徹し、山を徹す。身行して障礙無きこと、猶お虚空の如し。地に於いて或いは没し或いは出づること、猶お水に在るが如し。水の上を行くこと、猶お地を行くが如し。虚空を行くこと、猶お飛鳥の如し。手もて日月を摸す。是の如き大神通、是の如き大力の身、乃ち梵世に至るまで起こす。」
七つの神通力が列挙される。原典はここで先に全体を示す。その後、各神通力の修法を個別に展開する。
壁を徹す──「此れ当に虚空と成るべし」
「彼の坐禅人、是の如く虚空一切入を修行するを以て、第四禅に入り、安詳に出で、壁を徹し、牆を徹し、山を徹す。已に転を成して転ず。智を以て受持す。『此れ当に虚空と成るべし』と。已に虚空と成る。彼の坐禅人、虚空に於いて、壁を徹し、牆を徹し、山を徹す。行くに障礙無きこと、猶お虚空の如し。」
虚空一切入。第六巻から展開されてきた業処の一つ。虚空を所縁として一切入の修行を深め、第四禅で自在を得た者が、この神通力の基盤を持つ。
入定する。安詳に出定する。「此れ当に虚空と成るべし」と智を以て受持する。「已に虚空と成る」。
原典はここで問答を挿む。
「或いは現すとは、何の義ぞ。開くなり。或いは現せずとは、何の義ぞ。開かざるなり。彼の坐禅人、開かざるを開かしむ。」
壁は閉じている。「開かざる」。虚空一切入を以て「此れ当に虚空と成るべし」と受持するとき、閉じていたものが開く。壁が虚空になる。開かざるを開かしむ──これが壁を徹すことの意味である。
地に没す・水を歩く──一切入の直接応用
「地に於いて或いは没し或いは出づること、猶お水に在るが如し。彼の坐禅人、是の如く心を以て水一切入を修行す。第四禅に入り、安詳に出で、地を転じて隔を作す。智を以て受持す。『此れ当に水と成るべし』と。彼の坐禅人、地に於いて出没を成す。猶お性の水の如し。」
水一切入。「此れ当に水と成るべし」。地が水になる。
「水の上を行くに、心障礙せず。猶お地を行くが如し。彼の坐禅人、是の如く心を以て地一切入を修行す。第四禅に入り、安詳に出で、水を転じて隔を作す。智を以て受持す。『此れ当に地と成るべし』と。已に地と成る。彼の坐禅人、水に於いて行くに障礙せず。性の地を行くが如し。」
地一切入。「此れ当に地と成るべし」。水が地になる。
一切入の業処修習の内容が、神通の具体的な様態を決定する。壁を徹すには虚空一切入の自在。地に没するには水一切入の自在。水を歩くには地一切入の自在。業処と神通は連続している。
手で日月を摸す
「彼の坐禅人、禅人有り、神通有り、心の自在を得。是を以て心を修行し、第四禅に入る。安詳に出で、手もて日月を摸す。智を以て受持す。『此れ当に近く手と成るべし』と。彼、近く手と成る。彼の坐禅人、或いは坐し或いは臥して、手を以て日月を捫摸す。身を起こして乃ち梵世に至る。」
「此れ当に近く手と成るべし」。
日月を遠くのものとして把持しない。近く、手のところにあるものとして受持する。「彼、近く手と成る」。受持することで、日月が近く手に成る。
坐して、または臥して、手を以て日月を摸す。
梵世への行──五神通の統合
「彼の坐禅人、神通有り、心の自在を得て、梵世を行くを楽う。是の如く四如意足、是の如く心を修行するを以て、遠に於いて近を受持し、近に於いて遠を受持す。或いは多を少に受持し、或いは少を多に受持す。天眼を以て梵天の色を見、天耳を以て梵天の声を聞き、他心智を以て梵天の心を知る。」
梵世を行くには、身通だけでは足りない。
天眼で梵天の色を見る。天耳で梵天の声を聞く。他心智で梵天の心を知る。五神通が統合されて、はじめて梵世への行が完備する。
「彼の坐禅人、三行あり。二行を以て梵世を行く」──飛行の三種のうち、二行を以て梵世に至る。
「変、受持変なり。受持変已に竟る。」
受持変の完了。
作変──「我れ当に童子の形と成るべし」
「彼の坐禅人、若し自らの形色を除きて、童子の形を作さんと楽わば、第四禅に入り、安詳に出で、次第に童子の形に転ず。已に転じて智を以て受持す。『我れ当に童子の形と成るべし』と。是の如く作意して童子の形と成る。」
作変の定型が受持変と異なる一点を確認する。
受持変の受持の定式は「此れ当に〜と成るべし」。所縁(壁・地・水・日月)が変化の主語。
作変の受持の定式は「我れ当に〜の形と成るべし」。修行者自身が変化の主語。
自性の身を捨てて別形に変じる(作変の定義)──それが受持の定式においても「我れ」として反映されている。
童子の形から始まり、龍・鳳凰・夜叉・阿修羅・帝釈・梵・海・山・林・師子・虎・豹・象馬・歩軍と展開される。
「作変已に竟る。」
意所作変──「猶お空瓶の如し」
「彼の坐禅人、意所造の変を起こさんと欲す。是の如く心の自在を得て、如意足を修す。第四禅に入り、安詳に出で、**其の身内に於いて作意す。猶お空瓶の如し。**彼の坐禅人、是の如く作意す。空なる自身の内に於いて、其の楽う所に随いて変化を為す。」
身内を空瓶として作意する。
空瓶は中が空である。受持変では壁を虚空として受持した。意所作変では、自分の身の内を空瓶として作意する。空の容器として。その空の内から、意の造るところに従って変化が生まれる。
「其の当に成るべきに随いて転ず。已に転じて智を以て受持す。其の当に成るべきに随う。是の如く作意す。相似に随うを成す。此の方便を以て多く変化を作す。変化を作し已りて行を成す。」
化身が生まれる。本体から派生した化身は、本体と同期する。「若し神通人、此に於いて逍遥せば、彼の所化の人も亦た復た逍遥す」──本体が動けば化身も動く。問えば答える。煙焔を出せば、化身も出す。意の所造に随って。
「意所作変已に竟る。」
散句──化人の九事と「寿命根無し」
三種の変の完了宣言の後、散句が置かれる。
「化人に於いて寿命根無し。」
化身は命根を持たない。生きている存在ではない。本体の意の所造として動くが、それ自体の命根はない。「意の所造に随いて」という意所作変の定義が、ここで実践的に確認される。
化人が扱える事は九つ。「所化の飲食、事変の種智、九事を成す。小事・大事・不可説事・過去事・未来事・現在事・内事・外事・内外事なり。」
「此れ当に〜と成るべし」の定式
本バッチを通じて、受持変の各神通力に共通する構造が確認された。
「智を以て受持す。『此れ当に〜と成るべし』と。已に〜と成る。」
受持することで変化が生じる。「此れ当に〜と成るべし」と受持することと、「已に〜と成る」の間に、命令の介在は記述されない。壁に「虚空になれ」と命じるのではない。「此れ当に虚空と成るべし」と智を以て受持する。そのとき、壁は虚空になる。
この受持の定式は、受持変・作変・意所作変の三種を通じて、形を変えながら繰り返される。
変化の起動は命令によらない。受持による。
三層クロスリファレンス
| 本バッチ | 大安般守意経 | Kernel 4.x |
|---|---|---|
| 一切入と神通力の直接対応 | MODULE 04(一切入の展開) | Vol.3(一切入システム) |
| 「此れ当に〜と成るべし」の受持の定式 | MODULE 09(禅定の深化) | Vol.5(定の自在) |
| 「猶お空瓶の如し」──身内の空の作意 | MODULE 06(念身) | Vol.4(身観察システム) |
| 梵世への行:五神通の統合 | MODULE 12 | Vol.8(完全性証明) |
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