Batch-V9-04:声相と心の色──天耳通・他心智通

目次

天耳通──声相を作意す

「第四禅に入り、安詳に出で、次第に自性の耳界に依る。」

身通と同じ出発点から始まる。第四禅に入る。安詳に出定する。そして自性の耳界に依る。

身通では虚空に身を起動させた。天耳通では耳界に依り、声の相を作意する。

「若し遠き声、声相を作意す。或いは近き声、声相を作意す。若し大声、大声相を作意す。若し細声、細声相を作意す。若し東方の声、声相を作意す。是の如く一切の方に於いてす。」

遠い声の相。近い声の相。大きい声の相。細かい声の相。東方の声の相。一切の方の声の相。

声の特性ごとに、対応する相を作意する。

心が清白になり、耳界が清浄になるとき、人の耳を過ぎて両声を聞く。「謂わく天声・人声、或いは遠き、或いは近きなり。」


天耳通の二説──どこから始めるか

天耳通の修習開始点について、原典は二つの見解を並置する。

先師の説:「初めの坐禅人、先ず自身の衆生の声を聞く。此れより復た身外の衆生の声を聞く。此れより復た所住の処に依る衆生の声を聞く。是の如く次第に作意増長す。」

身体の内部から始め、外へ向かって次第に拡張する。

別説:「初めの坐禅人、是の如く先ず自身の衆生の声を聞くこと能わず。何を以ての故に、細声を聞くこと能わざればなり。自性の耳を以て其の境界に非ず。」

身体内部の細かい声は、自性の耳(通常の聴覚)の境界を超えており、天耳智で取るべき所縁ではない。だから別説は遠い螺鼓等の声(自性の耳で捉えられる大きな音)から始めることを勧める。「遠き螺鼓等の声、彼の声、自性の耳に依る。天耳智を以て、応に声相を作意すべし。」

二説は矛盾するのではない。修習の出発点の選び方に関する異なる見解として、原典は両方を置く。


驚怖は禅を退転させる

天耳通にも注意が置かれる。

「是に於いて、初めの坐禅人、最も畏るべきに作意すべからず。何を以ての故に、受くべき声に於いて、応に欲愛を説くべし。畏るべき声に於いて、応に驚怖を説くべし。耳畏れて智なればなり。」

快い声には欲愛が生じる可能性がある。畏るべき声には驚怖が生じる。驚怖が生じれば禅が退転する。

身通では「初めの坐禅人、当に速やかに遠く行くべからず。若し怖有らば、其の禅、退を成す」という注意があった。天耳通でも同じ原則が、聴覚の領域で繰り返される。

驚怖が禅を退転させる。だから最も畏るべきに作意してはならない。

「若し自性の耳を失わば、天耳界も亦た失う。」

天耳は自性の耳を基盤として成立する。通常の聴覚が失われれば、天耳も失われる。神通は自性の根を超えるが、その根を失えば神通も失われる。


他心智通──天眼を前提とする

「答う、光一切入、第四禅に於いて自在を得て、天眼を得て、他心智を起こす。」

他心智通の前提には、天眼が必要である。

五神通の中で、他の神通を明示的に前提とするのは他心智通だけ。身通は一切入の自在から。天耳通は耳界の自在から。しかし他心智通は、光一切入の第四禅の自在に加えて、天眼を前提とする。

なぜ天眼が必要か。修法を見れば分かる。


心の色を見る

「光一切入、第四禅に入る。安詳に出で、初めより光を以て其の身を満たしむ。天眼を以て其の自心の意色を見る。」

まず自分の身を光で満たす。そして天眼を以て、自分の心の意色を見る。

意色。心の状態が色として現れる。

「此の色、喜根の所起より起こる。此の色、憂根の所起より起こる。此の色、捨根の所起より起こる。」

心の状態が色として起こる。その色を、原典は七つの対応として記述する。

喜根と相応する心が現に起これば──「意色、酪酥の色の如し」。乳白色のような、清らかな白。

憂根と相応する心が現に起これば──「紫の色の如きを成す」。

捨根と相応する心が現に起これば──「蜜の色の如きを成す」。蜂蜜のような、落ち着いた黄金色。

愛欲と相応する心が現に起これば──「黄の色の如きを成す」。

瞋恚と相応する心が現に起これば──「黒の色の如きを成す」。

無明と相応する心が現に起これば──「濁の色の如きを成す」。

そして最後に。信と相応し及び智と相応する心が現に起これば──「清き色の如きを成す」。

七つの対応。瞋恚→黒、無明→濁という暗化・不透明化の方向と、信・智→清という清澄化の方向が、鮮やかに対比される。捨根→蜜の色は、動揺のない安定した暖かさとして七つの中に置かれる。


自心から他心へ

「彼の坐禅人、是の如く自身の変を以て、色の変を分別す。」

まず自分の心の色を識別する。自心の意色の体系を自分の身で確認してから、他者に向かう。

「爾の時、光を以て他の身を満たしむ。天眼を以て他の心の意色を見る。彼、心の変を以て色の変を分別す。色の変を以て心の変を分別す。是の如く分別して他心智を起こす。」

光を他者の身に満たす。天眼で他者の意色を見る。心の変化から色の変化を分別し、色の変化から心の変化を分別する。この双方向の分別を通じて、他心智が起動する。

そして最終段階。「已に他心智を起こして、色の変の分別を除き、唯だ心の事を取る。」

色は足場だった。他心智が確立された後、色の分別は除かれる。「唯だ心の事を取る」──直接、心を知る。

「或いは愛有る心、愛有る心を知る。或いは愛無き心、愛無き心を知る。若し瞋恚有る心、瞋恚有る心を知る。若し瞋恚無き心、瞋恚無き心を知る。是の如く一切知るべし。」


他心智通の限界

「彼の無漏の他心は凡夫の境界に非ず。無色処に生ずる衆生の心は、唯だ仏の境界なり。」

二重の限界が明示される。

無漏の他心──阿羅漢等の清浄心──は、凡夫の境界にない。煩悩で汚れた心には、煩悩を超えた清浄心は知れない。

無色処に生ずる衆生の心──色のない領域の心──は、仏のみが知る。他心智通は色を介した認識から始まる。色を持たない衆生の心は、色を介した認識の外にある。

「若し声聞、自在を得れば、一千世界の心を知る。此れより縁覚は最も多し。如来は無量なり。」

神通の範囲は、修行の完成度に応じて広がる。しかし無色界の衆生の心は、完成の極みである如来にしか知れない領域として残る。


二つの神通が示す識別の方向

天耳通は声相を作意する。声の特性(遠近・大小・方向)ごとに、対応する相を作意する。

他心智通は心の色を識別する。心の状態(喜根・憂根・捨根・愛欲・瞋恚・無明・信智)ごとに、対応する色が現れる。

どちらも「相・色を通じた識別」として構造が共通する。声という形で捉えられないものを声相を通じて。心という直接には見えないものを意色を通じて。

そして両方とも、最終的には足場が除かれることが示唆される。天耳通では声相から直接天声・人声を聞く。他心智通では色の分別を除いて直接心の事を取る。

識別の足場は、識別が確立した後、除かれる。


三層クロスリファレンス

本バッチ大安般守意経Kernel 4.x
天耳通:声相の作意・定型サイクルの継続MODULE 09(禅定の深化)Vol.5(定の自在)
先師の別説の並置────
他心智通の前提:天眼依存MODULE 09Vol.5
心の色の識別:意色の七色MODULE 06(念身・心の観察)Vol.4(業処システム)
「色の変の分別を除き、唯だ心の事を取る」MODULE 12Vol.7(滅・捨断)
神通の限界:声聞・縁覚・如来の三段階MODULE 13Vol.8(完全性証明)
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