大日経略摂念誦随行法 / 書き下し文

大日経略摂念誦随行法(だいにちきょうりゃくしょうねんじゅずいぎょうほう) 亦(また)の名は 五支略念誦要行法(ごしりゃくねんじゅようぎょうほう) 一巻

開府儀同三司・特進・試鴻臚卿(しこうろきょう)・粛国公(しゅくこくこう)、食邑(じきゆう)三千戸、紫を賜(たま)い、司空を贈らる、諡(おくりな)は大鑒正(だいかんしょう)、号は大広智(だいこうち)、大興善寺(だいこうぜんじ)の三蔵沙門(さんぞうしゃもん)不空(ふくう)、詔(みことのり)を奉じて訳す。


無礙智(むげち)に稽首(けいしゅ)したてまつる 密教の意生子(いしょうし)よ 彼(か)の蘇多羅(そたら)に依(よ)りて 此(こ)の随行法を摂(しょう)す 真言行(しんごんぎょう)の菩薩は 先(ま)ず平等誓(びょうどうせい)に住し 語密(ごみつ)・身密(しんみつ)倶(とも)に 後(のち)に相応の行を作(な)す

三昧耶(さんまや)真言に曰(いわ)く

ノウマク サンマンダ ボダナン オン アサンメイ チリサンメイ サンマエイ ソワカ

契(けい)は謂(い)わく 斉(ひと)しく輪を合し 並びに二空(にくう)を建(た)つ 五処(ごしょ)は頂(いただき)・肩・心(むね) 最後に咽(のど)の位(くらい)に加(くわ)う 次に不動聖(ふどうしょう)を以(もっ)て 障(さわ)りを辟(しりぞ)け及び垢(あか)を除く 而(しか)して能(よ)く衆事(しゅじ)を浄め 結護(けつご)相応に随(したが)う

不動尊真言に曰く

ノウマク サンマンダ バザラダン センダ マカロシャダ ソワタヤ ウン タラタ カンマン

定(じょう)の空(くう)を地・水に加え 風・火を心(むね)に竪(た)つ 慧剣(えけん)も亦(また)是(か)くの如し 鞘(さや)を出(い)でて能く成弁(じょうべん)す 次に如来鉤(にょらいこう)を説く 用(もっ)て本尊を請(しょう)ず 一切(いっさい)の衆聖(しゅしょう)の主(しゅ) 本誓(ほんぜい)に依りて来(きた)る

如来鉤真言に曰く

ノウマク サンマンダ ボダナン アク サルバトラ アハラチカタ タタサトウ クシャ ボウジシャリヤ ハリホラカ ソワカ

止観(しかん)内(うち)に相(あい)叉(さ)し 堅く合して智(ち)の風(ふう)を竪つ 纔(わず)かに初分(しょぶん)に屈し 余輪(よりん)の状(かたち)環(わ)の若(ごと)し 聖天(しょうてん)の悲願(ひがん)の力 請に随いて咸(ことごと)く来降(らいごう)す 三昧耶を奉現(ぶげん)し 明契(みょうけい)前の説の如し 既に本誓を呈(てい)し已(おわ)りて 喜びを発して謬(あやま)り無し 次に当(まさ)に力分(りきぶん)に随いて 供養して誠心(じょうしん)を表すべし 閼伽(あか)・香・食・灯(とう) 下(くだ)りては一花(いっけ)・一水(いっすい)に至る 或(ある)いは但(ただ)心に運想(うんそう)するも 殊勝(しゅしょう)にして最も量(はか)り難し 当に普通印(ふつういん)を以て 密語(みつご)共に之(これ)を加うべし 有表(うひょう)・無表(むひょう)倶に 一時(いちじ)に皆成就す

普通真言に曰く

ノウマク サンマンダ ボダナン サルバタ ケン ウダギャテイ サパラケイマン ギャギャノウケン ソワカ

禅智(ぜんち)互いに相叉し 斉しく輪を頂上(ちょうじょう)に合す 心を運(めぐ)らして普(あまね)く周遍(しゅうへん)し 念ずる所皆現前す 既に供養を施し已りて 常作(じょうさ)の持誦(じじゅ)を修す 先ず金剛の鎧(よろい)を擐(つらぬ)き 結護の事(こと)相応す

金剛甲冑(こんごうかっちゅう)真言

ノウマク サンマンダ バザラダン バザラ キャバチャ ウン

先ず虚心合(こしんごう)を作(な)し 風輪(ふうりん)火を糺持(きゅうじ)す 大空(だいくう)火の本(もと)に依り 遍(あまね)く触れて後(のち)心(むね)に居(お)く 次に方隅(ほうぐう)の界(かい)を結ぶこと 前の不動尊の如し 左に転じて辟除(びゃくじょ)を成し 右に旋(めぐ)らし及び上下す 備(つぶ)さに身の支分(しぶん)に触れ 結護悉(ことごと)く堅牢なり 真言及び本契(ほんけい) 前の如く已(すで)に分別す 既に厳備(ごんび)を為し訖(おわ)りて 当に根本契(こんぽんけい)を示すべし 還(また)五位(ごい)の処(ところ)に加う 七転(しちてん)或いは再三(さいさん) 印を散じて頂上に開き 半跏(はんか)に身意(しんい)を正す 或いは相応の坐(ざ)を作し 方(ほう)に随うこと教説の如し

正面(しょうめん)身の前に住し 一(ひと)つの円明(えんみょう)の像を覩(み)る 清浄にして瑕玷(かてん)無く 猶(なお)満月輪(まんがちりん)の如し 中に本尊の形有り 色(しき)の如くにして三界(さんがい)を超(こ)ゆ 妙縠(みょうこく)身服(しんぷく)を厳(かざ)り 宝冠(ほうかん)紺髪(こんぱつ)垂(た)る 寂然(じゃくねん)たる三摩地(さんまじ) 輝焔(きえん)衆電(しゅでん)に過(す)ぐ 猶お浄鏡(じょうきょう)の内(うち)の如く 幽邃(ゆうすい)に真容(しんよう)を現ず 喜怒(きど)顔色(がんしょく)に顕(あらわ)れ 操持(そうじ)と与願(よがん)と等し 正受(しょうじゅ)相応の身 明了(みょうりょう)にして心乱るること無し 無相(むそう)の浄法体(じょうほったい) 願に応じて群生(ぐんじょう)を済(すく)う 専注(せんちゅう)して念持(ねんじ)し 限数(げんすう)既に終畢(しゅうひつ)し 懈極(けごく)して後に方(まさ)に已(や)む 復(ま)た普通印を結ぶ 虔誠(けんじょう)に願(がん)を啓(けい)する等 慇重(おんじゅう)に聖尊を礼す 左に転ずる無動(むどう)の力 前に結ぶ所の護(ご)を解く 還(また)本尊の契を呈し 頂上に之(これ)を散開(さんかい)す 心に聖天を送り 五輪(ごりん)地に投じて礼す 然(しか)して起ちて衆善(しゅぜん)に随い 後会(ごえ)復た初めの如し 一時(いちじ)と二三と 或いは四も皆此(か)くの如し 余分(よぶん)には塔を旋繞(せんにょう)し 像を浴(ゆあみ)し方広(ほうこう)を讃(さん)ず 曼荼羅(まんだら)を塗飾(とじき)し 花を布(し)きて仏徳を讃ず 或いは復た雑念無く 等引(とういん)に専注す 此(これ)を以て三業(さんごう)を浄(きよ)むれば 悉地(しっじ)速やかに現前す 聖力(しょうりき)の加持(かじ)する所 行願(ぎょうがん)相応するが故(ゆえ)に 諸(もろもろ)の修習(しゅじゅう)を楽(ねが)うこと有る者は 師に随いて受学(じゅがく)せよ 持明(じみょう)本教(ほんぎょう)を伝え 三昧耶を越ゆること無かれ 勤策(ごんさく)して間断(けんだん)無く 蓋(がい)及び熏酔(くんすい)を離(はな)る 学処(がくしょ)に順行(じゅんぎょう)すれば 悉地力に随いて成ず 我れ大日の教えに依りて 略(ほぼ)瑜伽(ゆが)の行を示す 殊勝の福を修証(しゅしょう)し 普(あまね)く諸の有情(うじょう)を潤(うるお)す


大日経略摂念誦随行法 一巻


注記

  • 真言(三昧耶・不動尊・如来鉤・普通・金剛甲冑)は訓読せず、読誦のかたちをカタカナで示した。冒頭の「ノウマク」は「ナウマク」とも読む。
  • 原文の割注(二合=連声、引=長音、半音・平声・上声=音の指示、呼=発音注)は発音注のため、読みに反映して本文からは省いた。
  • 如来鉤真言の「怛他薩儻(タタサトウ)」は、本来サンスクリットの tathāgata(如来)に当たる箇所で、底本の字の乱れとみられるが、原文の字に従って読みを与えた。
  • ふりがな・送り仮名・漢字の宛て方には学派・底本による異同があり、本書き下しはその一案。
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