解脱道論 覓善知識品第五 ── 物語版 Batch 23
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1. 知っているか、聞くか
Batch 22で、善知識の条件が定まった。二種の功徳成就か、それがなければ七分成就。では、その人をどう見つけるのか。
ウパティッサの答えは簡潔である。
「若し知れ、某甲の住処、是れ功徳成就して重んずべしと。若し禅師有らば、応当に彼に往くべし」
自分で知っているなら、往け。
「若し自ら知らずとも、余処の同学知らば、応に往きて親しく覲すべし」
知らなければ、知っている人に聞け。
方法は二つしかない。自知か、他知か。どちらの場合も、結論は同じ──往く。
2. 聞き方の手順
ただし、同学に聞くにも手順がある。ウパティッサはここで、接触の初動に制約をかける。
「已に時節を知りて如法に未だ其の意を説かず。恭敬し労わり、起居を問う」
いきなり「禅師を紹介してくれ」と言わない。まず相手の状況を問う。時節を見る。そのうえで、問うべき項目が列挙される。
何処の国土か。何処に住んでいるか。衆は安住しているか。僧は静坐しているか。禅師はいるか。その行はどうか。何の功徳をもって貴ばれているのか。
七つの質問。漠然と「いい先生いますか」ではない。国土、住止、衆の状態、僧の状態、禅師の有無、禅師の行、禅師の功徳。環境から人へ、外から内へと問いが進む。
3. 聞いたら、まず喜ぶ
同学が答える。某国・某住・某衆に禅師がいて、衆に愛重されている、と。
このとき弟子がすることを、ウパティッサはこう書く。
「聞くを得已りて深く思い随喜す」
深く思い、随喜する。すぐに荷物をまとめるのではない。まず情報を受け止め、喜ぶ。喜びが先で、行動が後。これはBatch 12で見た「歓喜を後と為す」の変奏でもある。喜びは頭陀の帰結であり、ここでは探索の中間点でもある。
4. 和上への許可
弟子は勝手に出発しない。
「応に衣服を整え、和上の所に到りて自ら意楽を説くべし」
衣服を整える。和上のもとに行く。自分の意楽──何がしたいのか──を説く。
「和上、我を聴せ。我れ当に彼に往きて禅師を親覲すべし」
和上の応答が記録されている。
「善哉、我れも亦た随喜す。是れ善人の所作なり」
善哉。ここでも随喜。師が弟子の成長を喜ぶ。そして和上は教誡を加える。
5. 和上の教誡──六つの項目
和上の送り出しの言葉は、具体的である。
「愼みて放逸すること莫れ」──不放逸。 「若し是の善人ならば、勤めて修学すべし」──勤修学。 「一時及び一切時に於いて等しく信敬を加え」──等信敬。最初だけ敬うのではない。 「誠に当に善語もて身口を守護し」──身口守護。 「修行を暁解すべし」──修行の理解。
そして最後に:
「一切師に依りて軽易を生ずること莫れ」
すべての師に対して、軽んじる心を起こすな。これは新しい師に対してだけでなく、「一切師に依りて」と書かれている。どの師に対しても、である。
6. 初めて嫁する小女
態度の比喩として、ウパティッサはこう書く。
「初めて嫁する小女の性もて舅姑に事うるが如くすべし。応に慚愧を生じて教誡を聴受すべし」
初めて嫁いだ若い女性が、舅姑に仕えるように。慚愧をもって、教誡を聴受せよ。
この比喩は、単なる「謙虚であれ」という教訓ではない。慚愧──自分の未熟を知っていること──が、教誡を受け入れる前提条件として設定されている。自分が足りないと知っている人間だけが、教えを受け取れる。Batch 14の「五種の均衡」で定の受け手の条件が示されたように、ここでは師弟関係の受け手の条件が示されている。
7. 和上の送別
弟子が出発する前に、和上は最後の手当てをする。
「若し弟子の衣服・湯薬無きを見ば…如法に料理し、法を説き教誡す」
衣服や湯薬がなければ整える。物質的な不足を放置して送り出さない。そして法を説き、教誡する。
「将送するに及びて、行坐し、善法を以て教う」
送りながら、歩きながら、座りながら、善法を教える。送別は儀式ではなく、最後の教えの時間である。
Batch 22で見た「終に棄捨せず」がここに具体化される。善知識は最後まで見捨てないだけでなく、送り出すときも教え続ける。
座ることとの接続
善知識の探索手順は、座る前の手順である。大安般守意経のMODULE 1が安般守意のシステム定義(対象の特定)から始まるように、ここでは「誰のもとで座るか」という対象の特定が行われている。
Kernel 4.xのVol.0がシリーズインデックス──全体の入口──であるように、善知識の探索は修行全体の入口である。入口を間違えれば、その後のすべてが歪む。だからウパティッサは、探索の手順をここまで丁寧に書いた。
詳細な仕様は → SPEC-KALYANAMITRA-03(シンプル版)を参照。
原文(書き下し)
問う、云何が応に覓むべき。 答う、若し知れ、某甲の住処、是れ功徳成就して重んずべしと。若し禅師有らば、応当に彼に往くべし。若し自ら知らずとも、余処の同学知らば、応に往きて親しく覲すべし。已に時節を知りて如法に未だ其の意を説かず。恭敬し労わり、起居を問う。所行を諮訪す。何処の国土、何処の住止ぞ。衆の安住有りや。僧の静坐有りや。是の禅師有りや。其の行、若為ぞ。何の功徳を以て一切の貴ぶ所なる。応に是の如く問うべし。 同学、応に答うべし。某国・某住・某衆・禅坐す。某禅師、衆の愛重する所なり。聞くを得已りて深く思い随喜す。当に彼の処に往きて親しく覲して行を受くべし。応に衣服を整え、和上の所に到りて自ら意楽を説くべし。 和上、我を聴せ。我れ当に彼に往きて禅師を親覲すべし。 和上、応に聴して答うべし。善哉、我れも亦た随喜す。是れ善人の所作なり。此れを善人の共住、善人の所行と謂う。是れ法に随いて修行す。若し見聞せば大利益を得。何に況んや共住せんや。汝、当に彼に往くべし。汝、已に彼に往かば、愼みて放逸すること莫れ。若し是の善人ならば、勤めて修学すべし。若し一時及び一切時に於いて等しく信敬を加え、誠に当に善語もて身口を守護し、修行を暁解すべし。当に成就を得べし。一切師に依りて軽易を生ずること莫れ。初めて嫁する小女の性もて舅姑に事うるが如くすべし。応に慚愧を生じて教誡を聴受すべし。 若し弟子の衣服・湯薬無きを見ば、若し彼に往く時、如法に料理し、法を説き教誡す。将送するに及びて、行坐し、善法を以て教う。
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