お尋ねの真言は、『大日経』密印品第九に説かれる「12. 与願印(よがんいん)」の真言です。
namaḥ samanta-buddhānām varada vajrātmaka svāhā
与願印とは、仏が慈悲をもって衆生の願いを聞き入れ、望むものを与える働きを象徴する印です。この真言は、その働きを音声として顕現したものです。
全体の意味は、「あまねきすべての仏たちに帰命いたします。願を施す者よ、金剛を本質とする者よ、成就あれ(svāhā)」となります。
サンスクリット語の単語ごとに詳しく分解すると、以下のようになります。
1. namaḥ (ナマッ / 南麼)
- 意味: 「帰命(きみょう)する」「敬礼(きょうらい)する」。
- 解説: 対象に対する絶対的な帰依と尊敬を表す言葉です。多くの真言の冒頭に置かれる定型句です。
2. samanta-buddhānām (サマンタ・ブッダーナーム / 三曼多勃馱喃)
- 意味: 「あまねき(samanta)すべての仏たちに(buddhānām)」。
- 解説: 『大日経』の真言の冒頭に置かれる特徴的なフレーズです。「samanta」は「全方向の、完全な」、「buddhānām」は「仏たち」の複数属格です。「十方三世のすべての仏」に対する帰依を表明し、すべての仏の智慧と慈悲に接続する意図があります。
3. varada (ヴァラダ / 嚩囉娜)
- 意味: 「願(vara)を施す者、与える者(da)」。
- 解説: この真言の中核となる言葉です。「vara」は「願い、恩恵、宝」、「da」は「与える」を意味する接尾辞です。衆生の願いを聞き、必要なものを与える仏の慈悲深い働きを指します。
4. vajrātmaka (ヴァジュラートマカ / 伐折囉怛麼迦)
- 意味: 「金剛(vajra)を本質(ātmaka)とする者」。
- 解説: 「vajra」は金剛石(ダイヤモンド)のように堅固で、雷のように強力な智慧を、「ātmaka」は「〜を本質とする、〜の自性を持つ」という意味です。仏が与える「願」や「恩恵」が、決して壊れることのない金剛の智慧に基づいていることを表します。また、類似の真言では、行者が自らを金剛の本質と一体化させる観想と結びつく表現でもあります。
5. svāhā (スヴァーハー / 莎訶)
- 意味: 「成就あれ」「幸あれ」。
- 解説: 伝統的に真言の力を確定・封印する結びの言葉です。真言の力が確実に発揮されることを願う「印(seal)」のような役割を果たします。
全体のまとめと思想的意味
この真言は、単に「願いを叶えてほしい」と乞うものではなく、以下の構造を持っています。
- まず、あまねきすべての仏へ帰依を表明する(namaḥ samanta-buddhānām)。
- その上で、仏の「願を施す(varada)」働きを、決して壊れることのない「金剛の本質(vajrātmaka)」として呼び起こす。
- それを、成就の言葉で封印する(svāhā)。
仏の慈悲深い「願いを叶える」働きが、単なる世俗的な利益を超えて、堅固な智慧(金剛)に基づいていることを理解し、その働きをわが身に呼び戻す、というのがこの真言の思想的な意味合いです。

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