【Batch 12】身の非行と口の非行

解脱道論 分別戒品第二 ── 物語版 Batch 12

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目次

1. 分析から実装へ

Batch 10〜11で、戒は22の軸で分類された。二種が10軸、三種が8軸、四種が4軸。これは戒を分析する格子だった。

本バッチで、分別戒品は決定的に転換する。

復た次に、戒に四種有り。波羅提木叉威儀戒・命清淨戒・根威儀戒・縁修戒なり。

この四種は、前の軸とは性質が違う。これは分析ではなく、実装の領域区分である。

波羅提木叉威儀戒──律に定められた行為の規範。 命清浄戒──生計を清浄にする。 根威儀戒──六つの感覚器官を守る。 縁修戒──衣食住薬の四事を修行として行う。

律(行為)・命(生計)・根(感覚器官)・縁(生活)。この四つが、Batch 12〜17の骨格となる。本バッチから、戒は「何であるか」の分析を終え、「どう行うか」の実装仕様に入る。


2. 波羅提木叉とは何か

波羅提木叉とは、是れ戒なり、是れ起なり、是れ初なり、是れ行なり、是れ護なり、是れ威儀なり、是れ脱なり、是れ無縛なり、是れ諸法の面、善法を正受せんが爲なり。

ウパティッサは波羅提木叉に9つの属性を与える。戒であり、起(出発点)であり、初であり、行であり、護であり、威儀であり、脱(解放)であり、無縛(縛りなし)であり、諸法の面(すべての法の表面=入口)。

9つの属性の中で、最も注目すべきは「脱」と「無縛」である。波羅提木叉は規則の束だが、その本質は束縛ではなく解放であり、縛りの不在である。規則を持つことが自由になること──これは逆説のように聞こえるが、Batch 08の「頭の義」を思い出せば理解できる。頭がなければ根は機能しない。規則がなければ自由は機能しない。

身口業を越えず。是れ威儀なり。

身口の業を越えないこと。それだけが威儀である。


3. 非行──利を得るための操作

波羅提木叉威儀戒の詳述は「衆行具足」から始まり、まず「非行」が定義される。

云何が非行なる。若し比丘有りて、彼の一人に於いて、或いは杖竹を施し、或いは花葉果實を施し、或いは楊枝澡浴を施し、或いは美惡を販弄し、或いは調戲を爲し、或いは諂諛して自ら進み、或いは恣に驅馳して遠く賓を招會す。此の如き諸行、佛の制する所なり。邪命自活と謂う。此れを非行と爲す。

七つの非行。杖竹を贈る。花や果実を贈る。楊枝や入浴用品を贈る。良し悪しを取り混ぜて売り買いする。ふざけてみせる。へつらって自分を売り込む。遠方の有力者をわざわざ招く。

これらはすべて、人間関係の操作によって利を得る行為である。ウパティッサはこれを「邪命自活」──邪な生計の手段──と呼ぶ。Batch 14で展開される命清浄戒(邪命を犯さないこと)の具体例が、すでにここで先出ししている。


4. 身の非行──僧団の中で何をしてはならないか

復た次に、二種の非行有り。身の非行・口の非行なり。

非行は身と口に分かれる。ウパティッサはまず身の非行を詳述する。

若し比丘有りて、陵慢の心を以て僧中に往至し、大徳を排觸し、叨佷として自ら前す。

僧団に陵慢の心をもって入る。大徳(先輩の僧)を押しのける。強引に自分を前に出す。

或いは猗り或いは行きて先に上位に坐し、大を下に推す。

先に上位の席に座り、年長者を下に押しやる。

上座は徒跣なるに、自ら革屣を著く。耆徳は下路なるに、己は高陌を行く。

上座が裸足で歩いているのに、自分は革の履物を履く。年長の徳者が低い道を歩いているのに、自分は高い道を行く。

これらは序列の破壊である。仏教の僧団は出家の年次で序列が決まる。序列は権力構造ではなく、敬意の構造である。それを無視することは、僧団そのものの破壊に等しい。

或いは勝を以て少に待し、劣を推して長に與う。

優れたものを少量だけ高位の者に渡し、劣ったものを多量にして低位の者に渡す。分配の不公正。

或いは浴室に於いて諸の薪木を燒き、門戸を關閉するに皆諮問すること無し。

浴室で薪を焼き、門を閉じるのに、誰にも相談しない。共有の資源を自分一人で使う。

或いは水邊に詣りて輒ち自ら先に入り、身を嬌にし搏を撃ち諸の鄙相を現ず。

水辺に行って真っ先に飛び込み、体を誇示し、拳を打って卑しい相を見せる。

若し他の舍に入りて前後を超越し、行坐次無し。

他人の家に入って前後の順番を飛び越え、行住坐臥に秩序がない。

そして最後。

或いは屏處に在りて女人及び諸の僮女と戲弄し、其の首を摩觸す。

人目のない場所で女性や少女と戯れ、首を撫でる。

是の如き等の過、身の非行と謂う。

18項目。ウパティッサはこれらをすべて列挙した。圧縮しない。省略しない。


5. なぜこれほど具体的なのか

Batch 08〜11は抽象度が高かった。戒の定義、分類の軸、障害と因のリスト。しかし本バッチで突然、具体性が激増する。

「上座は裸足なのに自分は履物を履く」。「浴室の門を閉めるのに誰にも相談しない」。「水辺に行って真っ先に飛び込む」。

これはなぜか。

波羅提木叉威儀戒は、身口の業を越えないことである。身口の業は、具体的な場面でのみ越える。抽象的に「傲慢はいけない」と言うのと、「上座が裸足のときに自分が履物を履くな」と言うのでは、実行の精度が違う。

ウパティッサは、抽象から具体へ降りた。22軸の分類格子で戒を分析した後、ここで「実際に何をしてはならないか」を場面ごとに列挙する。分析は完了した。ここからは仕様書である。


6. Batch 08の三破法との接続

Batch 08で述べた戒の相の三破法を思い出す。

第一:波羅提木叉法の破壊──無慚無愧、如来への信を離れる。 第二:縁法の破壊──命と形飾に相応して知足を離れる。 第三:根法の破壊──六根の門を閉じず、念慧を離れる。

本バッチの四種戒(波羅提木叉・命・根・縁修)は、この三破法を実装仕様に展開したものである。三破法の「波羅提木叉法の破壊」が波羅提木叉威儀戒に対応し、「縁法の破壊」が命清浄戒と縁修戒に対応し、「根法の破壊」が根威儀戒に対応する。

分析の枠組み(三破法)が、実装の領域区分(四種戒)として再出現する。解脱道論は、同じ構造を異なるレベルで反復する。


座ることとの接続

身の非行18項は、座る人間にとって一見無関係に見える。僧団の序列、浴室の使い方、水辺での振る舞い。座禅とは関係なさそうである。

しかし、Batch 09の34障害を見直すと、慢(#11)・増上慢(#12)・傲慢(#13)は身の非行の根にある。不敬師学(#32)は上座への不敬の根。狎俗(#30)・親近女人(#31)は女性との不適切な接触の根。

身の非行は、34障害が身体を通して表れた形である。34障害は心のリスト。身の非行は身体のリスト。同じものの二つの表現。

大安般守意経 MODULE 4(数息のパラメータとエラー定義)は、座っているときの具体的なエラーを定義する。数が多すぎる、少なすぎる、途中で止める。本バッチの身の非行は、座っていないときの具体的なエラーを定義する。座る前と座った後の行為が清浄でなければ、座っている時間だけ清浄であっても、戒は成立しない。

Kernel 4.x Vol.2(18のノイズ除去)は、ノイズの具体的なカタログを提示する。本バッチの身の非行18項もまた、ノイズのカタログである。ただしこちらは、座る前の社会的行為におけるノイズ。


詳細な仕様は → SPEC-SILA-05(シンプル版)を参照


原文(書き下し)

復た次に、戒に四種有り。波羅提木叉威儀戒・命清淨戒・根威儀戒・縁修戒なり。

云何が波羅提木叉威儀戒なる。此に於いて比丘、波羅提木叉の威儀の覆う所に住して行ず。行處具足し、細罪に於いて畏る。正しく學ぶ可き戒を受學す。此の者、此の師法に於ける比丘とは、凡夫の善有り。復た次に、有學・無學、不動法有り。波羅提木叉とは、是れ戒なり、是れ起なり、是れ初なり、是れ行なり、是れ護なり、是れ威儀なり、是れ脱なり、是れ無縛なり、是れ諸法の面、善法を正受せんが爲なり。波羅提木叉の義と名づく。身口業を越えず。是れ威儀なり。覆う所とは、此の波羅提木叉の威儀を以て成就し住すとは、四威儀を護る。衆行具足するとは、復た行有り、非行有り。

云何が非行なる。若し比丘有りて、彼の一人に於いて、或いは杖竹を施し、或いは花葉果實を施し、或いは楊枝澡浴を施し、或いは美惡を販弄し、或いは調戲を爲し、或いは諂諛して自ら進み、或いは恣に驅馳して遠く賓を招會す。此の如き諸行、佛の制する所なり。邪命自活と謂う。此れを非行と爲す。

復た次に、二種の非行有り。身の非行・口の非行なり。云何が身の非行なる。若し比丘有りて、陵慢の心を以て僧中に往至し、大徳を排觸し、叨佷として自ら前す。或いは猗り或いは行きて先に上位に坐し、大を下に推す。或いは坐し猗りて排調す。或いは肩を拍ち笑語す。上座は徒跣なるに、自ら革屣を著く。耆徳は下路なるに、己は高陌を行く。衆の異縁を以ての故に相い輕惱す。或いは勝を以て少に待し、劣を推して長に與う。或いは浴室に於いて諸の薪木を燒き、門戸を關閉するに皆諮問すること無し。或いは水邊に詣りて輒ち自ら先に入り、身を嬌にし搏を撃ち諸の鄙相を現ず。若し他の舍に入りて前後を超越し、行坐次無し。或いは屏處に在りて女人及び諸の僮女と戲弄し、其の首を摩觸す。是の如き等の過、身の非行と謂う。


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